今度日本語教師の採用面接を受けますが、模擬授業に合格できる自信がありません… 落ちる人も結構いるそうですね…
日本語教師の求人情報を見ると、採用プロセスの中に、面接試験に加えて「模擬授業」と書かれていることが多いと思います。
模擬授業とは、日本語教師の採用面接で課される課題の1つで、面接官を学習者役に見立て、外国人に日本語を教える授業をやってみせることを言います。
日本語教師養成講座(420時間)でも、同様の形の模擬授業が行われるので、養成講座に通っている人はやり方等をすでに知っていると思います。
日本語学校等で日本語教師として働くためには、このハードルのクリアがほぼ必須となります。
そこで、今回の記事では、模擬授業で失敗しないためのコツや対策を
(1)模擬授業のテーマと授業環境の理解
(2)授業準備
(3)当日までの練習
(4)模擬授業当日
の4つに分けて解説します。
✔日本語教師の採用面接に合格したい!
✔日本語学校の模擬授業で落ちてしまった…
✔模擬授業で失敗しないコツが知りたい!
0. はじめに|そもそも日本語教師の模擬授業とは何か
まず、模擬授業というものについて、簡単に理解しておきましょう。
(1)模擬授業とはどのようなものか
先述の通り、模擬授業とは、面接官を学習者役として、応募者が外国人相手の日本語の授業をやって見せる課題です。
日本語学校等への就職面接では、この課題が課されることがほとんどです。
一般的な模擬授業の概要を下にまとめておきます。
学習者役:1人~3人(面接官)
授業時間:10分~20分
実施場所:学校、またはオンライン
課題の例:
・教科書「みんなの日本語初級Ⅰ」17課の「Vないでください」の導入~練習部分
・教科書「できる日本語初級」5課の1「週末」の導入~練習部分
多くの場合は、「10分~20分程度で、ある教科書の該当課や該当文型を教えてください」というようなお題です。
(2)模擬授業を行う目的は?
日本語教師の採用面接で行われる模擬授業の目的は、以下のようなものが挙げられます。
・面接試験だけでは分からない日本語教師としての授業スキルを確かめる
・想定外の事態や緊張時の咄嗟の対応力や、その場での問題解決能力を測る
・学習者とのコミュニケーションに問題がないかを確認する
・学校や使用教科書のスタイルに合っているかを確かめる
いずれにしても、
「この人を採用して、すぐに授業に入ってもらっても問題ないか」
「学校に在籍する学習者とうまくやっていけそうか」
等を確かめるために行われる試験が模擬授業です。
日本語学校はどこも人手不足が続いているため、採用したら即戦力となれる人材を求めています。
模擬授業は、即戦力となり得る力の有無を判断するのに有効な手段だと言えます。
では、ここからは、合格を勝ち取るための具体的な対策を見ていきましょう。
1. 模擬授業のテーマと授業環境の理解
まず何より大切なのは、与えられたお題とルールを、正確に理解することです。 ここでは、模擬授業の準備を始める前に、正確に理解しておくべき項目を解説します。
(1)模擬授業のテーマ(お題)と、扱う教科書や文型・用法
テーマや扱う項目については、以下の内容を確認しておきましょう。
・使用する教科書と該当の課/文型(どの用法を扱うか)
・具体的な授業の流れ(導入/練習/応用のどの部分を実施するか)
・新出語彙の扱いはどうするか(新出語彙も教えるか、既に導入済みとするか)
・模擬授業の実施時間
この項目の把握を正確に行うことが、合格への最初のステップです。
該当箇所や扱う用法が間違っていたり、採用担当者との意図がズレていたりすると、そもそも評価するのが難しくなってしまいます。
その場ですぐ修正するのも、不可能ですよね。
そうならないように、この項目について不明な部分があれば、事前に採用担当者に確認してください。
(2)授業を実施する環境(教室や設備、できる/できないこと)
続いて大切なのは、模擬授業を行う環境を正しく理解しておくことです。
以下の項目を確認しておいてください。
・使うのはホワイトボードか黒板かスクリーンか
・ペンや磁石等の備品はどこまで用意されているか
・ICT機器の使用環境(または使用の可否)はどうか
授業環境の確認は、授業準備を始める前にしておくことが大切です。
ここの確認を怠ると、
「磁石があると思って絵を印刷して持って行ったけど、当日磁石がなくてWBに貼れなかった」
「プロジェクターが使えると思ってPPTで教材を準備したが、当日使用できなかった」
このような失敗が起こり得ます。
授業の内容や授業スキル以外の部分で失敗して、正当に評価してもらえないのはとても勿体ないことなので、授業環境の確認は、事前にしっかり行うようにしましょう。
特にICT機器の整備状況は、正確な情報をもらっていないと、最悪当日授業ができなくなる可能性もあるので、気を付けてください。
授業で使えるICT機器が知りたい方はこちら↓
2. 授業準備で気を付けるポイント
テーマと授業環境の把握がしっかりできたら、模擬授業の準備に移ります。
このセクションでは、準備の段階で意識しておいてほしいポイントを解説します。
(1)内容はシンプルに、伝わりやすさを最優先に
模擬授業で最も大切なのは、指定された部分の導入や練習が問題なくこなせることです。
「指定の文型や学習項目がしっかり伝わること」を最優先に考えて教案等を準備しましょう。
扱う例文等の場面や状況は、学習者に身近な以下のようなものが最適です。
・コンビニ、スーパー、駅など、日常生活に関わる場所での出来事
・友達や恋人、家族、先生との会話場面
・留学や旅行などに関する内容
よくある失敗は、自分の個性的な趣味や貴重な経験などをシェアしたい思いが強すぎて、一般的には知名度がかなり低いものや、学習者の日常生活からかけ離れているものを扱ってしまうことです。
通常の授業でもそうですが、模擬授業では特にこのような個性を押し出した内容を扱うと、面接官の理解が得られなかったり、指定された項目以外の部分で時間を取ってしまったりするので、避けた方が無難です。
授業で扱いやすいテーマが知りたい方はこちら↓
また、板書(PPTでも)についても、当日その場でごちゃごちゃ書いてしまい、乱雑になってしまわないように、教案の中で、シンプルな板書計画を作っておくのが◎です。
(2)学習者(面接官)からの質問や、誤用を予測しておく
模擬授業では、面接官は学習者になり切っているので、授業の流れの中でこちらの説明に対して質問してきたり、練習のときに(わざと)間違えたりすることが多くあります。
これは、実際の授業で同様の事態が起こったときに、どう対応するのかを見るためです。
ただ、経験の浅いうちや、緊張している場面では、準備していない状態で突然質問されたり、間違いが起きたりすると、その場で咄嗟に上手く対応するのはかなり難しいと思います。
この部分が怖いという新人日本語教師の声も、よく聞かれます。
だから、いきなり質問されて戸惑ってしまわないように、事前に予測して対策しておきましょう。
模擬授業でよく聞かれる質問には、以下のようなものがあります。
・授業で扱う文型と、既習の○○という文型の違い
・授業で扱う文型を使って、○○と言うことはできるか(できない)
・学習者(面接官)が作った文(誤用)が、どうしてダメなのか
また、模擬授業で面接官が起こしてくる誤用やトラブルは、以下のようなものがあります。
・指示された内容が理解できず、答えられない(ふりをする)
・動詞や形容詞の活用、文型の接続を間違える
・前後件の制限ルールに反した文を作る
このような質問やトラブルに対応する方法を事前に準備したり考えたりしておくことで、冷静に対応することができます。
「授業準備だけで精一杯で、こんなに準備できないよ…」という人は、以下の2つだけは必ずやっておいてください。
(1)既習の課(模擬授業が5課なら1~4課)の中で、模擬授業で扱う文型と意味や用法が似ているもの(類似表現)をチェックし、違いを調べておく
(2)扱う文型や表現などを使う際に、考えられる誤用を予測し、その訂正方法を考えておく
ここの対応が合否を分けることもあります。
しっかり準備しておきましょう。
質問の答えが分からないときの対処法が知りたい方はこちら↓
外国人学習者からよく聞かれる質問はこちら↓
外国人学習者がよく間違える初級文法はこちら↓
3. 当日までの練習で意識しておくべきこと
授業準備ができたら、当日までに何度か練習をしておきましょう。
練習は、主に以下の項目を確認するために行ってください。
・時間配分(全体/各項目の所要時間)と全体の流れ
・教材や資料の提示順、提示方法
・学習者とのやり取りのタイミングと想定回答
・授業中の話し方と立ち振る舞い
準備の段階では気が付かなくても、リハーサルしてみると気が付くミスや改善点があるはずです。
何度か練習して、その部分を当日までに改善しておきましょう。
ここの修正が上手い人は、日本語教師としての成長も早いです。
実際に見てくれる人がいたら、その人に学習者役をやってもらうのが一番です。
1人でやる場合は、ビデオで録画しておくと、上記の内容の問題点の振り返りが簡単にできるので、おススメです。
練習の際は、以下の2点を意識して何度かやってみてください。
(1)時間が適切に配分できること
(質問やトラブル等を想定し、練習では指定時間の80~90%ぐらいで終わるのがベスト)
(2)教材や資料がスムーズに提示できること
ぶっつけ本番でやる人と、何度か練習をした人とでは、授業のスムーズさと本番での冷静さにかなりの差が生まれます。
「本番でボロボロになって落ちた…」「てんやわんやで恥ずかしかった…」ということも格段に少なくなると思います。
失敗して、反省して、学んだことを生かして修正
という振り返りのプロセスを本番前に踏んでおくのは大事なことです。
授業準備の様々な悩みと解決法が知りたい方はこちら↓
4. 模擬授業当日に気を付けるポイント
練習を重ね、いよいよ模擬授業本番当日。
これまでの努力を無駄にしないように、当日気を付けるべきポイントを解説します。
(1)時計やタイマーは必ず持っていく
練習した時間配分を踏襲し、指定の時間内に準備したものがしっかり出し切れるように、時計やタイマー(スマホでもいいけど)は必ず持って行きましょう。
学校によっては、会議室のような場所で模擬授業をやらされたりして、教室に時計がなかったり、教師からは見にくいところに時計が設置されていたりすることも稀にあります。そのような場合に焦らなくていいように、時間を測れるものは必ず持参しましょう。
(2)使うものは提示順に並べて番号を振っておく
これまで何年も採用面接に関わってきましたが、模擬授業中に提示したいものがどこにあるか分からなくなって授業がストップしてしまう、という人を何人も見てきました。
私も新人の頃に実際の授業でそうなってしまったことが何度かあります。
模擬授業の本番でそうならないように、当日使うものは、事前に提示する順番に並べておきましょう。
また、提示する資料の裏に、提示順を示す数字を書いておくと、当日迷うこともないのでおススメです。
PC等でデータファイルを使って授業をする場合も、複数のファイルを扱うなら、ファイル名に番号を振っておくと、授業中に困ることがありません。
PPTファイル1つだけで授業を行う場合は、この点は心配しなくてもいいですね。
(3)単文で話すこと、短い文で話すことを意識する
多くの場合、模擬授業では、初級の学習項目がお題として指定されます。
そのため、模擬授業では、初級の学習者に合わせた話し方をすることが求められます。
日本語教師養成講座に通った人は、この「語彙コントロール」がある程度身についていて、やり方も分かっていると思いますが、そうではない人は、「どんな話し方をすればいいか分からない」と思うかもしれません。
そういう人は、あまり難しいことは考えずに、とりあえず以下の2点を意識してみてください。
①単文(主語と述語が1つだけの文)で話すこと
②できるだけ短い文で話すこと
これだけで印象は大きく変わります。
以下の例を見てください。
これは私の部屋なんですけど、ここの机の上にあるのは、先週私の父が北海道に行ったときに買ってきてくれたお土産のお菓子です。
これだと、1つの文が長く、日本語を勉強し始めたばかりの人には難易度がかなり高いですよね。 そこで、以下のように直してみます。
(写真を見せながら)
これは私の部屋です。
机の上に、何がありますか?
これはお菓子です。
先週、私の父が北海道に行きました。
これは、お土産です。
父が買って来てくれました。
この例だとどうでしょうか。
1文1文がシンプルに、短くなっているので、分かりやすいですよね。
1文に載せられている情報が少ないので、初級レベルの人でも、理解しやすくなります。
これができているだけで、外国人向けの話し方が意識できているという印象を与えられるので、ぜひ実践してみてください。
それと、この語彙コントロールに関してよく言われることは
「既習の表現だけで話す」ということです。
模擬授業が5課だったら、4課までに勉強した語彙だけで説明する、というものです。
余裕がある人は、これも意識して教案を組み立ててみてください。
ただ、全て既習の語彙や文型だけで話さないといけない訳ではないので、ここは意識しすぎなくてもいいと思います。
外国人に伝わりやすい話し方が知りたい方はこちら↓
まとめ
日本語教師が採用試験で課される模擬授業のポイントについて解説しました。
これから就職活動や転職活動を行う人は、ぜひ参考にしてみてください。
ただ、一応言っておくと、模擬授業で合格するために大切なのは、完璧な授業をすることではありません。
大切なのは、しっかりと準備したことが伝わる授業をし、常識とマナーのあるコミュニケーションを行い、日本語教師の仕事に真摯に向き合いたいという姿勢を示すことです。
ここに書いたことを実践しながら模擬授業に真剣に取り組めば、日本語教師として働く道が見えてくると思います。
自分に合った学校で働けるように、頑張ってください!
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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