日本語教師の国家資格化に伴い、新しい試験が始まると聞きました。
詳しい内容を教えてください。
日本語教師の新たな国家資格「登録日本語教員」が2024年4月から創設されます。
それに伴い、国家資格取得のための新試験「日本語教員試験」が始まります。
この記事では、この試験に関する最新情報をお届けします。
※この記事の内容は、下記の資料に基づいて作成した更新日時点での最新情報です。
詳細な資料は、文化庁の日本語教育や日本語教育小委員会のページをご覧ください。
・「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(日本語教育機関認定法)
・「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律施行令」
・その他文化庁文化審議会国語分科会日本語教育小委員会、ワーキンググループの各資料
「日本語教育機関認定法 今後のスケジュール案」
「認定日本語教育機関に関する省令等の案について」
「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関に関する省令等の案について」
「令和5年度日本語教員試験試行試験実施概要」
「令和6年度以降の日本語教員試験の実施について」など
✔️登録日本語教員の国家資格が取りたい!
✔️日本語教員試験を受験したい!
✔️日本語教師の新試験について詳しく知りたい!
1. 日本語教員試験の概要
日本語教員試験とは、新しく創設される日本語教師の国家資格「登録日本語教員」を取得するために受験・合格が必須となる試験です。
2024年4月から新たに施行される「日本語教育機関認定法」に基づき、日本語教育機関を認定する新たな制度が始まります。
この新制度が始まると、「認定日本語教育機関」で働くためには、「登録日本語教員」の資格が必須となります。
その資格取得のためには、この「日本語教員試験」の合格が必要になります。
「登録日本語教員」の資格取得フローや要件等を詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
日本語教員試験は、筆記試験①(基礎試験、以下「試験①」)と筆記試験②(応用試験、以下「試験②」)の2つの試験があります。
試験の内容は以下の通りです。
・試験①… 日本語教育を行うために必要な基礎的な知識や技能の有無を確認する試験
・試験②… その知識や技能を応用する力(課題解決や現場対応力)の有無を確認する試験
この日本語教員試験は、日本語教師(登録日本語教員)として、合格者が一定の専門性を持っていることを証明するための試験と位置付けられています。
2. 日本語教員試験の日程、会場、試験時間
日本語教員試験は、1年に1回以上、全国各地で実施されることになっています。
2023年の12月10日(日)には、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の5か所で試行試験が行われましたが、本試験はまだ行われていません。
第1回の本試験は、2024年11月17日(日)に行われる予定です。
ちなみに、現行の法務省告示校で日本語教師として働くための資格の1つである「日本語教育能力検定試験」は、1年に1回、毎年10月に行われていますが、日本語教員試験はこれとは全く別の試験です。
新試験は、より多くの人に日本語教師(登録日本語教員)になる機会を提供するため、複数回の実施が検討されています。
ただ、試験の実施回数や開催場所は段階的に増やすという方針が出されているため、最初のうちは1年に1回しか実施されない可能性が高そうです。
2024年の実施は1回のみです。
来年以降は、複数回の実施、また、全都道府県での実施を期待したいところです。
なお、文科省が指定する要件を満たした機関は「指定試験機関」となり、文科省の代わりに試験を行うことができます。指定試験機関の指定は、2024年春ごろの予定です。
ただし、第1回目の試験は、国が直接実施するとのことです。
また、1回目の試験は紙ベースで行われますが、今後の検討課題として、試験のCBT化(パソコンで試験を受ける形)も挙げられています。
試験の詳細な時間等は、2024年4月以降に公開される予定です。
ちなみに、12/10(日)の試行試験は、下記の構成で行われました。
試験の種類 | 試験時間 | 問題数 | 配点・満点 |
---|---|---|---|
試験①(基礎試験) | 120分 | 100問 | 1問1点・100点 |
試験②(応用試験) | 音声45分 文章題120分 | 音声50問 文章題60問 | 1問2点・220点 |
本試験もこの試行試験を参考に作られるとのことなので、これに近い形になる可能性が高そうです。
3. 日本語教員試験の受験料、申込方法、受験資格
この試験の受験資格は、特段設けられないことになっています。
学歴や年齢、国籍等の要件もなく、外国人も含めた幅広い層がチャレンジできることになりそうです。
日本語教員試験の受験料は、以下の通りです。
区分 | 受験料 |
---|---|
試験①と②を受験する場合 | 18,900円 |
いずれかだけ受験する(1つ免除の)場合 | 17,300円 |
両方とも免除になる場合 | 5,900円 |
申し込みの方法やフロー詳細が出るのは2024年の4月以降になりそうですが、夏ごろに申し込みが始まる予定になっています。
申し込みはオンラインでできるようにしてほしいですね。
ちなみに、試験①と試験②の両方が免除となる場合でも、受験料を支払い、合格証を取得する必要があります。
免除については、セクション6をご覧ください。
4. 日本語教員試験の形式、出題範囲
試験の出題範囲は、平成31年の「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」で規定されている50項目の「必須の教育内容」(以下「必須の教育内容50項目」)に基づくとされています(下記画像)。
日本語教育に関わる分野からその周辺知識まで広範囲に渡っているので、独学で合格するにはかなりの努力が必要となるでしょう。
ただし、分野別、対象者別(留学生・生活者・就労者など)に必要な細かな知識や、より高度な知識については出題される可能性が低そうです。
出題形式は、試験①、試験②とも、多肢選択(マーク)式です。
現時点では記述式問題の出題は明記されていません。
しかし、「問題解決能力を測る記述式問題」については今後検討していくとされているので、応用知識を問う試験②の方には、今後記述式問題が設定される可能性はあります。
ただ、登録日本語教員になるためには試験とは別に教育実習(実践研修)を受ける必要があること、日本語教師不足の現状があること等、記述問題の導入に対してやや消極的な内容が会議で報告されているため、記述式問題が設定される可能性はあまり高くなさそうです。
そのほかには、
・質を維持するために継続的に問題を検証、蓄積すること
・指定された日本語教師養成機関を適切に修了した者が合格できる内容にすること
などが試験作成・運営における必要事項として挙げられています。
5. 日本語教員試験に出題される内容
このセクションでは、日本語教員試験に出題される内容について、試験①と試験②に分けて解説します。
(1)試験①(基礎試験)の試験内容
前述の「必須の教育内容50項目」に基づいて、日本語教育を行うための基礎的な知識・技能を問う問題が出題されます。
試験①は原則として、「出題範囲の5区分ごとの設問により、日本語教育の実践につながる基礎的な知識及び技能を測定するもの」となっています。
5区分というのはセクション4で引用した画像にある
①「社会・文化・地域」
②「言語と社会」
③「言語と心理」
④「言語と教育」
⑤「言語」
のことです。
12月の試行試験では、その項目から、以下のような割合で出題されました。
区分 | 出題割合 |
---|---|
社会・文化・地域 | 約1割 |
言語と社会 | 約1割 |
言語と心理 | 約1割 |
言語と教育 (教育実習除く) | 約4割 |
言語 | 約3割 |
概ね必須の教育内容50項目の量に沿った出題割合となっています。
本試験もこれに近い形になることはほぼ間違い無いでしょう。
(2)試験②(応用試験)の試験内容
「必須の教育内容50項目」に基づいて、日本語教育を行うための基礎的な知識・技能を応用する力を問う問題が出題されます。
以前の報告では、「現場対応や問題解決能力を測る」旨の記述がありました。
試験②では、出題範囲が必須の教育内容50項目の複数の領域にまたがる問題が出題されます。
また、基礎的な知識及び技能を活用した問題解決能力(応用)について、音声を媒体とした問題も出題されます。
試行試験では、日本語学習者の発話や教室での教師とのやりとりなどの音声を用いて、実際の教育現場に即した実践問題が出題されました。
本試験でもおそらく同様に、日本語の音声、発音、学習者の誤用等に関する問題が出題されるでしょう。
6. 日本語教員試験の受験が免除される条件は?
最初に述べたとおり、登録日本語教員になるためには、基本的にこの日本語教員試験の受験と合格が必須です。
ただし、以下の条件を満たす人は、この試験の一部または全部の免除を受けることができます。
(1)文科省が指定する日本語教師養成機関の課程を修了した人
文科省が指定する日本語教師養成機関の所定の課程を修了した人は、試験①が免除されます。
大学の主専攻や副専攻、民間の日本語教師養成講座がこれに当たります。
ただし、状況によって免除の条件が異なるので注意が必要です。
【A】文科省に(新制度開始後)新たに指定される「登録日本語教員養成機関」の課程を修了
→無条件で免除
【B】必須の教育内容50項目を踏まえた現行課程を修了
→経過措置期間中(制度開始の2024年4月から5年間(場合により9年間)のみ、無条件で免除
【C】必須の教育内容50項目を踏まえていない現行課程を修了
→経過措置期間中のみ、講習の受講及び講習修了認定試験の合格を以って免除
【A】はこれから文科省により認定されることになる正規の日本語教師養成課程(「登録日本語教員養成機関」と言います)を修了した場合です。
この申請は2024年の夏ごろから始まる予定です。そのため、受講できるのは2025年からになるでしょう。
【B】は現行の日本語教師養成課程のうち、必須の教育内容50項目に対応している課程を修了した場合です。
この対象となる課程は、2024年3月中に文化庁から発表される予定です。なお、この【B】の場合は、学士以上の学位が必要になります。
【C】はそれ以外の現行課程を修了した場合です。
こちらは無条件で免除されるわけではなく、講習の受講と、その講習の修了を認定する試験の合格が必要になります。
また、この【C】の場合は、学士以上の学位に加えて、日本語学校(法務省告示校)や国内の大学で日本語教師として1年以上働いた経験も必要になります(詳しくはこちら)。
試験②(応用試験)については、次に解説する(2)の場合を除いて、合格が必須となります。
新制度における日本語教師養成講座について詳しく知りたい方はこちら↓
(2)現職日本語教師で、2023年までの日本語教育能力検定試験に合格している人
日本語教育能力検定試験に合格している人は、上記【C】と同様に講習を受けることで試験①と試験②の両方が免除されます。
ただし、対象となるのは、昭和62(1987)年~令和5(2023)年の間に行われた日本語教育能力検定試験に合格し、日本語学校(法務省告示校)や国内の大学で1年以上日本語教師経験を積んだ人です。
なお、この期間内の受験の場合でも、年度によって経過措置の内容が異なるので注意してください。
また、この場合に関しても、試験の免除が認められるのは経過措置期間中のみになります。
経過措置の内容や条件について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
7. 日本語教員試験の結果発表、合格基準、合格率は?
結果発表の日程は、現時点では未定です。
ただし、試験が2024年11月17日、登録日本語教員の登録が2024年度内となっているため、2024年の12月~1月ごろになることが予測できます。
ちなみに、現行の日本語教育能力検定試験は、10月に試験が行われ、結果は12月に発表されます。
新試験の合否判定は、試験①、試験②のそれぞれで行われ、試験①の合格者(と免除者)のみが試験②を受けられます。
なお、試験①の合格は、次年度以降にも持ち越せます。
つまり、「今年試験①に合格したが、試験②に落ちたため、来年試験②だけ再挑戦する」ということが可能になります。
合格基準や点数に関しても、現時点では発表されていません。
ただし、12月に行われた試行試験では、以下のような参考の合格基準が設けられています。
試験区分 | 条件① | 条件② |
---|---|---|
試験① (基礎試験) | 出題範囲5区分で それぞれ7割程度以上 | 総合得点が 8割程度以上 |
試験② (応用試験) | ー | 総合得点が 6割程度以上 |
本試験の合格基準は、この試行試験の結果を参考に、有識者の意見等を交えながら新たに検討されます。
なお、試行試験の結果発表は、試験が行われた1か月半後に行われました。
8. 日本語教員試験試行試験の感想は?
2023年の12月10日に行われた試行試験について、X(旧Twitter)等で呟かれていた感想や報告内容をまとめました。
全体について
・試験時間はかなり余裕があった。
・マークシートは表面1枚だけで、すべて4択問題だった。
・基本的には日本語教育能力検定試験を踏襲した問題だったが、難易度は低かった。
・留学生、法務省告示校向けの内容が多かった。
・日本語教師の経験がある人は、文章をしっかり読んでいけば、用語が分からなくても推測できる問題が多かった。
・設問の意図が曖昧、また複数の選択肢が正答になり得る問題があった。
・全体的によく練られた問題ではなく、質の低い問題が多かった。
・事後アンケートは簡易なもので、試験問題について言及できる設問がなかった。
試験①(基礎試験)について
・日本語教育能力検定試験よりも基礎的な問題が多かった。
・問題文自体も表現が全体的に分かりやすく書かれていた。
・養成講座修了者が免除というのにちょうどいいレベルだった。
・授業中の練習、学習者の試験解答などからの出題が多かった。
試験②(応用試験)の聴解問題について
・学習者と教師との会話から出題される問題だった。
・音声は全て1度だけ流れた。5問に1回小休憩があった。
・学習者の誤用を聞き取って、それを指摘するスキルが求められる問題が多かった。
・イントネーションやアクセントだけでなく、文法・語彙的な誤用を指摘する問題も含まれていた。
・日本語教師経験者は解きやすく、学習者と未接触、または接触機会の少ない人には解きにくい問題が多かった。
試験②(応用試験)の文章問題について
・基本的には日本語教育能力検定試験を踏襲した長文文章+設問形式。
・難易度は検定より低く、時間にも余裕があった。
・日本語教育の現場で行われるロールプレイを取り上げた問題もあった。
試行試験感想のまとめ
全体的に、日本語教育能力検定試験よりも難易度の低下がみられ、試験時間にはかなり余裕があるものになっていたようです。
また、出題傾向として、留学生向けの日本語教育(告示校)に大きく比重がかかっていたという感想も多くみられました。
文化庁によると、細かい知識を問う試験ではなく、日本語教育を取り巻く幅広い事情の基本が理解できているかを問う試験という位置付けだということなので、本試験もこれに近い難易度のものになることが予想されます。
とはいえこちらはあくまで試行試験で、もともとは日本語教師養成講座受講生や、日本語教師経験3年以下の方が受講対象になっていたので、現職教師の意見だけで「簡単だ」と言い切るのは危険だと思います。
今回のアンケートやFBが本試験にどの程度取り入れられるかを含めて、動向を注視していく必要があります。
※結果発表後の追記
現職日本語教師で試行試験を受験した人は、全体で7割~8割程度の点数は取得できたという人が多かったようです。ただ、これはあくまでネット上でそう言っている人が多かったというだけなので、そうじゃない人がどの程度いたかというのは未知数です。
また、養成講座受講中の方の点数についてはデータが不足しているため、楽観視はできません。
なお、試行試験受験者のアンケート結果については、こちらのページに掲載されています(文化庁HPにジャンプします。資料4を参照)。
9. 試験対策、勉強にオススメの問題集、過去問は?
日本語教員試験の出題範囲は、基本的に日本語教育能力検定試験と類似のものになっています。
だから、「必須の教育内容50項目」に対応済の日本語教育能力検定試験の過去問や問題集が参考になると思います(最新のものはほとんどが対応しています)。
今すぐにでも勉強を始めたいという方は、日本語教育能力検定試験の過去問や問題集を使って準備を始めてみてください。
それと、試行試験の問題の一部は、セクション8で紹介したアンケート結果とともに公開されています。こちらもある程度は参考になりそうです。
まとめ
いかがでしたか。
日本語教員試験について、現時点での最新情報をまとめて紹介しました。
まだまだ本試験については詳細が不明瞭といったところです。
また、今後の協議で変わっていく部分もあると思います。
この試験については、今後も最新情報をこのページでお知らせしていきます。
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コメント
コメント失礼いたします。
本試験の日程情報などはどこから得られたものなのでしょうか。文化庁のサイトを探してもどこに記載があるのかわかりません。私の見落としかもしれませんが、よろしければお教え願えませんでしょうか。
コメントありがとうございます。
日本語教員試験の日程については、こちらの日本語教育小委員会のページの資料5に記載されています。ご参考になれば幸いです。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo/nihongo_124/94009301.html