この記事は、私が日本語学校で出会った、とある中国人留学生の話【Part2】です。
初めての方は前編【Part1】からどうぞ↓
【Part1】のあらすじ
日本語学校に入学し、N3レベルのクラスで勉強を始めることになった中国人留学生のHさん。
「日本のアニメが好きで、将来日本で声優の仕事がしたいから留学した」というHさんは、入学当初は、少し話すのが上手な程度の、平凡な留学生に見えました。
ところが、授業初日の会話作成タスクの発表で、Hさんが突然高い会話運用能力を解放し、クラスメイトと教師は完全に置き去りにされてしまいました。
これを見た教師は、「このクラスにいるレベルの人ではない」と判断し、Hさんは翌日から一つ上のレベルのクラスに移動することになりました。
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3. 余すところなく解放された運用能力
翌日からHさんは、1つ上(N2レベル)のクラスで勉強することになりました。
しかし、そこでもHさんの実力は、他の追随を許さないほど飛び抜けていました。
N3クラスのときと同様に、会話作成やロールプレイでは他の学生はついてこられず、指定の語彙(その日に学習した語彙)以外は、なるべく簡単な言い方で、他の学生も分かるような表現を使うようにHさんにお願いしなければなりませんでした。
そしてもう一つ、衝撃を受けたことがありました。
それは、Hさんが書いた作文です。
彼女の作文は、まるで日本人が書いたかのように、自然な表現で、間違いも全くありませんでした。
彼女の書いた作文を初めて見たとき、鳥肌が立ったことを、今でも鮮明に覚えています。
間違いがなく、正確に文法や語彙を運用できる学習者はたまにいますが、Hさんが他の学習者と違っていたのは、
使っている語彙や文法のチョイスが完璧だった
ことでした。
私たちが英語などの外国語で話すときに、
「ああ、これってどの表現を使ったら自然に聞こえるのかな」
と迷うのと同じように、留学生が書いた作文というのは、不自然な表現で溢れています。
ただ、Hさんの場合はそれが全くと言っていいほどありませんでした。
日本人と同じように、文脈に最適な語彙や文法表現を使うことができていたのです。
結局、Hさんは翌週からさらに上のクラスへ移動し、3か月後には最上級のクラスへと移動することになります。
この学校では基本的に各クラスの学習期間は半年で設定されていたので、本来なら、1年半以上かかるところを、Hさんはわずか3か月で駆け抜けたということになります。
もっとも、最初にN3のクラスに入っていたこと自体が間違いだったといえば、そうなのですが。
…
4. オタクの力は偉大だった話「まとめ」
ここまでがHさんとの出会いについての回顧なんですが、重要なのは、
「Hさんが、母国に居ながらにして、しかも日本語学校に行かずに、なぜここまで日本語が上手になったのか」
ということです。
まず、彼女は中国人でしたが、朝鮮系の家系の出身でした。そのため、ハングルができました。
ハングルは日本語と構造が似ていて、ハングルができる人(韓国人など)は総じて日本語学習においてスムーズに習得が進みやすい傾向があります。また、発音もきれいで癖がない人が多いです。
k-popのアーティストの日本語って、上手だなあと思ったことはありませんか。
Hさんも同様にハングルができたので、そのことが彼女の学習を助けたという部分ももちろんあったでしょう。
でも、最も大きなポイントは、別のところにありました。それは、
彼女は「真のアニメオタクだった」ということです。
【Part1】でも書いたとおり、日本のアニメが好きな外国人はたくさんいます。
また、日本に来る理由として、「アニメが好きだから」というのを挙げる学習者もたくさんいます。
しかし、彼女の言う「アニメが好き」は、そのレベルとは比較にならないものでした。
持ち物もすべてアニメ関連グッズ、日本人より日本のアニメに詳しい(私たちが全然知らないアニメをたくさん知っている)、アニメの歌をたくさん歌える、教師やクラスメイトをアニメのキャラクターに例えてくる、話す言葉のあちこちにアニメのセリフっぽさが感じられる…。
そして何より、彼女の日課は、
毎日最低5時間はアニメを見ること
でした。
これは衝撃でした。
「アニメが好き」という学習者は多いのですが、長くてもせいぜい1日1~2時間見るとか、週に3、4日見るぐらいでしょう。
しかし、Hさんは、日本に来る前から、何年間も毎日欠かすことなく、日本のアニメを5時間(以上)見ていたそうです。
「これだったのか」
私はそう思いました。
私も外国語を勉強するときに、海外ドラマや映画を見て語彙やフレーズを学ぶという方法を使っていたので、これを聞いたときに、なぜ彼女の日本語がここまで高いレベルに達していたのかを、理解した気がしました。
アニメって、ストーリーがあって絵があるので、ある意味では教科書や授業よりも、状況設定(その語彙や表現が使われる場所、時間、相手、シチュエーションなどを示すこと)がしっかりしていて、会話を習得するための教材としては、かなりポテンシャルが高いと私は思っていました。
これを常人には到底真似できないほどの長い時間、毎日継続して見て、聞いているのだから、このHさんのように語学習得能力がもともと高い人なら、かなりのレベルに達することができるというわけなのです。
中途半端にアニメを見ている人は、変な話し言葉が急に出てしまったり、失礼に当たるような表現を不意に使ってしまったりするのですが、Hさんは恐ろしいほどの量のアニメを見て、恐ろしいほどたくさんの状況とそこで行われる会話に触れていたのでしょう。
だからしっかり相手によって表現を使い分けることもできたし、それを作文にも応用することができたんですね。
ただ、これは本気のアニメオタクのHさんだからこそ、なしえた業です。
ちなみにHさんは、日本語学校修了後は、声優の専門学校に進学し、いまはアニメ制作の会社で仕事の経験を積んでいるところだそうです(コロナの影響で大変そうですが…)。
アニメは偉大な教科書だな、と。
そう感じた出会いでした。
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