早く廃れた方がいい日本語教育業界の伝統5つとその解決策

日本語学校の古い伝統

日本語学校や日本語教育業界には、そもそも効率的ではないのに、「昔からやっているから」という理由だけで続いていることや、「こうあるべき」みたいな昔からの固定観念のせいで残っている古いやり方・考え方が結構あります。

この記事ではそれを紹介するとともに、解決策を考えてみたいと思います。

1. 超非効率的な完全直接法授業

国内の日本語学校では昔から「直接法(ダイレクト・メソッド)」と言われる、「媒介語を使用せず、日本語で日本語を教える」という教授法がとられてきました。

直接法は、母国語⇄外国語という変換プロセスをなくし、ダイレクトにその言語で学ぶことができるので、外国語を学んでいるという苦手意識が薄くなるなどのメリットがあると言われています。
また、間接法に比べ、学んでいる言語でのインプット/アウトプットが増えるので、それが学習効果を生み出すという考え方もあります。

その弊害として生まれたのが、
いかなる場合も、すべて媒介語を使わず教えなければならない
という考え方です。

これが原因で、多くの日本語教師が、翻訳を出せばすぐに解決できる説明を日本語だけで行うために、無駄な教材を準備したり、授業中に下手な小芝居をしたりしなければならなくなりました。
例えば、「Vた+ことがあります」という文法を説明するとき、間接法なら「経験」という翻訳語を見せてからこの文法を説明すれば一瞬でほとんどの学習者に伝わるところを、日本語だけで伝えるために導入の台詞を考えたり、小道具を作ったりすることに何時間も使わなければなりませんでした。

確かに、あまり言葉の通じない初級の学習者に、抽象的な言葉を全て日本語で説明するのは大変そうですね…

ただし、学習者の中には、せっかく日本へ来たんだから、日本語で勉強したいと考えている人が多いということも、この直接法が長年採用されてきた理由の1つでもあります。
だから、直接法を廃止すべきという考え方は、私は持っていません。
翻訳を見せれば1秒で理解できるところの説明に、何分もかかる上に理解度も下がりやすい直接法を貫く必要はないということです。

【解決策】

  • 抽象的で、日本語で説明するのは難しいが、翻訳を出せば解決するところは翻訳を提示する
  • 多国籍クラスの場合、各学習者の母語をカバーしていることを確認する
  • 「日本語で」日本語を学びたい学習者もいるので、多用しすぎないようにする
  • 翻訳を提示するだけですべて伝わるとは思わない

2. 時代錯誤な紙ベースの資料保存

コロナ禍の影響もあり、最近では日本語学校でもICT化やデジタル化が進んできましたが、種々の書類が紙ベースで保存されていることがまだたくさんあります。
この保管方法は整理も煩雑で、時間が経つと質も悪くなるし、あまりメリットがありません。

紙ベースだと嵩張りますしね…。無駄な印刷コストもかかりますね。

学習者の入国や在留資格関係、また学校の定員や教師の変更申請などに係る書類については、入管から紙での提出が求められていたことも一因です。最近ではようやく一部の報告関係の書類は、電子データでの提出が認められるようになりましたが、まだまだ遅れていると感じます。

では、具体的に、どのようなものを電子化していけばいいのでしょうか。

個人の教材は個人の自由ですが、学校で管理する書類や教材は、できるものからどんどん電子化していけばいいと思います。特に管理関係の書類、例えば学習者の出席簿、講師の出勤簿、学籍簿、面談記録等は、個人情報のセキュリティの観点や、記録・管理の観点、またコスト面から見ても電子化しない手はないでしょう。

教材については、著作権等の侵害にならないよう注意しながら進める必要はありますが、最近は日本語教育業界でも、電子書籍が増えてきているので、その辺りも活用していけばいいと思います。

【解決策】

  • できるところから電子化を進める
  • 教材以外の管理関係書類はどんどん電子化
  • 教材は著作権や使用方法等に注意しながら電子化を進める
  • 自分の教案や自作教材は電子データを貯めていき、適宜修正と整理を行う

3. 文型積み上げ式の教科書でコミュニケーション力養成

昔から日本語教育業界では、「試験ができても、コミュニケーションができなければ意味がない」とよく言われてきました。確かにその通りです。
その反面、日本語学校では、コミュニケーション能力の養成にはあまり適さない教科書がずっと使われてきました。「文型積み上げ式」の教科書です。

なぜそのような教科書が使われてきたのでしょうか。

日本語学習者、特に留学生の多くは、大学や大学院等への進学のためにJLPTを受験します。
受験資格としてJLPTのレベルを設定している学校が多いからです。
このJLPTに合わせて、N5⇨N4⇨…と基礎から日本語の文法構造を説明し、練習し、積み上げていける形の教科書が学習を進めやすかったということが、このタイプの教科書が長年使われてきた理由の中で、結構大きなウェイトを占めているのではないかと個人的には思います。

そんな中で、この項目の冒頭で紹介したように、「試験ができても、コミュニケーションができなければ意味がない」と主張する教師たちは、この教科書を使いながら、学習者のコミュニケーション能力の養成を目指していました。

ただ、このタイプの教科書だと、「文型」ごとに課が進んでいくため、文型を教えることがどうしても中心になってしまい、会話やコミュニケーションはその延長線上にある応用練習という位置付けになりがちなので、あまり効果は出ず、JLPTもコミュニケーションも中途半端な学習者が、結構多く生まれてしまいました。

最近では「場面シラバス」と呼ばれる、場面ごとに課がまとめられ、その場面で使う表現を学んでいくタイプの教科書を導入する学校も多くなってきました。

どちらの教科書も一長一短ですし、教える教師の技量にも左右される部分は多いですが、目的と需要に合った教科書を使わなければ、学校にとっても学習者にとっても、あまりいい結果が生まれることはないでしょう。

どちらが良い、悪いではなく、目的とニーズに合った教科書を選んで使うべきだということですね!

【解決策】

  • まず学校の強みと学習者のニーズを明確にする
  • 強みを強化する/ニーズを満たすために適切な教科書を選択する
  • 選択した教科書に適したカリキュラムを作成する
  • 文型シラバスと場面シラバスの強みと弱みを正しく理解する

4. 緩すぎる採用基準と万年人手不足

文化庁国語課から発表されている「令和元年度 国内の日本語教育の概要(文化庁HP)」によると、令和元年度の国内の日本語教師の数は、46,411人で、そのうち24,745人(53.3%)が、ボランティアによる者とされています。一方で、日本語学習者数277,857人のうち、法務省告示機関(いわゆる日本語学校)と大学等機関で学んでいる人の合計は、179,738人で、全体の約65%を占めます。

半分以上がボランティアの人で成り立っているんですね。知らなかった!

でも日本語学校で働くのは、ボランティアの人じゃないですよね…?

日本語学校では、ボランティアではなく基本的には常勤講師か非常勤講師が授業をします。
そのため、ここ数年慢性的に教師不足が続いています。しかも日本語学校は人手を増やさなければならない時期が決まっており(多くの学習者が入学する4月、10月)、それまでに必ず人員を確保しなければなりません。

2021年7月現在の最新の日本語教師の働き方、給料などの生の声はこちら↓

また、非常勤講師の場合、他の学校と掛け持ちしている人や、他の仕事や主婦業をしながら働いている人も多いので、思うように勤務シフトを確保できないこともあります。そのため、期限までに人数を揃えるために、質の低い講師でも雇わざるをえないことも少なくありません。

そんなに先生の人数が足りないなら、1クラスで勉強する人数を増やせば良いんじゃないですか?

入管が出している「日本語教育機関の告示基準(入管HP)」では、1クラスの人数は、20人以下でなければならないと定められているので、大学のように大人数に向けて授業をすることはできません。
また、初級のクラスだと簡単には言葉が通じない上に、単なる講義形式の授業をするわけではないので、あまり多くの人数を相手にすると対応しきれません。

【解決策】

  • 無理のない増員計画を立てる
  • 採用基準を明確にし、一定以上の教師の質を確保する
  • 教師が働きやすい環境をつくり、長期勤務や勤務日数の追加を促進する
  • 新人教師を育成するための制度・体制を整える

5. キャリーケースで大量のレアリアを持ち込む日本語教師

1.の直接法の話と、2.のデジタル化遅れに起因するものだと思いますが、日本語教師養成講座で結構教えられることが多かったのが、言葉で説明できないものは、実物(レアリア)を持ち込んで学習者に見せることによって理解してもらうという考え方です。

確かに、実物を見たら分かりやすいですね。

実物を見せればすぐに理解してもらえて、確かに分かりやすいですが、この考え方のもと、リアルさを追求するために多くのレアリアを持ち込むことや、学習者の印象に残るように個性的なレアリアを持ち込むことに命を懸ける日本語教師が、多く生まれました。

こういう準備に時間とお金をかける教師は、授業中にそれを使いたいという気持ちが強い傾向が見られます。たくさんの時間とお金をかけて準備したので、ある意味当然といえますね。

何時間もかけて準備したら、絶対見せたい!と思っちゃいますよね…。

でも、その気持ちが強すぎると、本来教えなければならない情報の伝達が疎かになったり、練習などの時間を圧迫してしまったりすることも少なくありません。
せっかく準備したのに…
は学習者には関係ありません。学習者からすれば、
せっかくお金を払ってるのに、こんな小道具見せられて肝心な説明や練習の時間が少なくなるなんてたまったもんじゃない
です。

【解決策】

  • 写真やイラストで済むものは持ち込まない
  • 導入〜練習までの流れに本当に必要か考える
  • 準備に時間とお金がかかるなら諦めて代替案を考える
  • 他の授業項目を圧迫しない範囲での使用に留める

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