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外国人に中級文法を教えるときのキーポイントとは?【日本語教師が解説】

中級以上の文法を教えるときのコツ

初級の授業はある程度問題なくこなせるようになってきたのですが、中級の文法の授業がなかなかうまくできません…。何かポイントはありますか?

中級以上(日本語能力試験のレベルで言うとN3ぐらいから)になると、抽象的な事象や感情を内包する文法表現が増えます。

一度習った文法も、新しい用法が出てきたり、似たような表現も増えてきますよね…

学習者だけじゃなく、私も混乱してしまうことがあります。

中級以上の文法を説明する時は、初級以上にポイントを整理して教えることが大切です。

ただでさえ抽象的で複雑なものが増えてくるので、教師の説明がすっきりしていないと、学習者はますます混乱してしまいます。

この記事では、中級以上の文法を教えるときに、どのようなポイントに絞って説明していけばよいかを解説します。

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1. 使用場面は会話文で示して労力節約&説明なしで伝える

場面シラバス・行動中心アプローチの教科書を使っている人は、このセクションはパスしてもらっても大丈夫です。

文型シラバスの場合、初級ではある程度の場面設定を教師側が用意しなければなりませんが、中級ぐらいになると理解力も上がってくるので、説明したい文法を会話文に入れ込むことで、無駄な場面設定や説明にかかる労力をカットすることができます。

例として、N3レベルで出てくることの多い「AおかげでB」という表現について考えてみましょう。

(例)

(学校で)

A(留学生)「先生!先生のおかげでN3に合格できました!本当にありがとうございました!」

B(先生)「おめでとうございます。Aさんがたくさん頑張ったから、合格できたんだと思いますよ」

このような、扱う文法表現を含めたダイアログをクラスに共有して、誰かを指名して読んでもらいます。

こうすることによって、面倒な準備や場面の説明等を省き、かつほぼ確実に使用場面を伝えることができます。

ポイントは、「場所、話者同士の関係、文脈、起こったこと、感情」が明確になるようにダイアログを作成することです。

もちろん、ダイアログは複数用意した方がいいです。1つでは十分には伝わらないことが多いからです。

【場面・用法のまとめ】

  • 場面と用法はダイアログを見せることによって理解してもらう
  • ダイアログは、場所、話者同士の関係、文脈、起こったこと、感情を明確にする
  • ダイアログは複数用意する

2. 意味・基本機能は初級表現で言い換えて、できるだけ単純化する

N3以上の文法表現になると、説明する要素が増えてくるので、他の説明や練習の時間を確保するために、意味や基本的な機能の説明は素早く簡潔に行いたいところです。

そんなときは、

意味・基本機能の最も近い初級の既習表現で言い換える

という方法を試してみてください。

先ほどの「AおかげでB」と、新たに「AせいでB」を例として考えます。

この2つは、実は広く考えると同じ「意味・基本機能」を持つ文法です。

「おかげで」と「せいで」って、どちらかと言えば正反対の意味じゃないんですか…。どうして同じだと言えるんでしょうか。

この2つに共通することは、「他者の行動や存在、または自然発生した出来事(A)の結果、Bという事態がもたらされる」というところです。

つまり、初級の文法で言い換えれば、どちらも理由や原因を表す「AからB」に近いと言うことができます。

この2つの文法の柱となる「意味・基本機能」の説明はこれで終わりです。

中級以上の文法説明がイマイチ学習者に理解されないと感じている人は、後述の前後件制限を、この「意味・基本機能」部分とごちゃまぜにして教えてしまっている可能性があります。

【意味・基本機能のまとめ】

  • 意味と基本的な機能は初級文法表現で言い換える
  • 抽象的で長い説明にならないようにする
  • 意味・基本機能 VS 前後件制限を混同しない

「前後件制限」の知識を手っ取り早く増やしたい人はこちら↓

「前後件制限」の基本的な見つけ方はこちら↓

最頻出の前後件制限ポイントをしりたい方はこちら↓

3. 接続は形・品詞・前後件制限に注目する

初級でも中級でも、文法表現の接続の形の説明は必須です。

説明のとき、どのようなことを伝えますか?

「動詞、形容詞」など、どの品詞が入るかと、「て形、ない形」など、どんな形で接続するかでしょうか。

そうですね。先ほどと同様に、「AおかげでB」と「AせいでB」を例にすると、

(1)N+の
(2)V普通形
(3)A普通形(△)
(4)NA普通形(△)

がAの前に入る接続の形です。(3)(4)の形はあまり頻出ではありませんが、一応あります。
この部分についても、両者は共通しています。

でも、中級では品詞と形を教えるだけでは、同じような文法が増え過ぎて、学習者はそれぞれの違いが分からなくなるし、誤文がたくさん出てくるようになってしまいます。

そこで中級以上で大切になってくるのが(初級でも大切ですが)、

前後件の制限

です。

前後件の制限というのは、

前件(文法表現の前に入る内容)と後件(文法表現に後続する内容)にどのようなルールや制限があるか

ということです。ここの部分の違いが、「AおかげでB」と「AせいでB」との違いでもあります。

前後件制限の考え方や調べ方が詳しく知りたい方はこちら↓

前後件制限の知識を一気に増やしたい方はこちら↓

最頻出の前後件制限ルールを詳しく知りたい方はこちら↓

今回の記事は文法解説ではないので、詳しい説明は省略しますが、2つの文法表現の前後件制限は、下記のように考えることができます。

【AおかげでB】の前後件制限

  • A・Bともすでに起きた/すでに決まった/すでに始まり今も継続している 事実が共起
  • A・Bとも基本的には(話者にとって)「+」の内容が共起(ただし皮肉の用法は例外)
  • Aには感謝を伝える対象が共起

【AせいでB】の前後件制限

  • A・Bともすでに起きた/すでに決まった/すでに始まり今も継続している 事実が共起
  • A・Bとも(話者にとって)「ー」の内容が共起
  • Aには非難の対象が共起

つまり両者の違いは

共起するのが話者にとって「+」の内容か「ー」の内容か

「感謝」の気持ちがあるか「非難」の気持ちがあるか

の2点であると言うことができます。

形・品詞・前後件制限のまとめ】

  • 接続は形・品詞・前後件制限を説明する
  • 前後件制限は明確にルール化して簡潔に説明する
  • 意味・基本機能が共通する文法の違いは、前後件制限から導き出す

4.「いつ使えるか」より「いつ使えないか」を説明する

次に「この文法表現はいつ使えないか」を説明します。

「いつ使えるか」というのは、ここまでの内容を説明すれば大体伝わりますが、「いつ使えないか」はこれだけではイメージできないからです。

「いつ使えないか」って、どうやって説明するんですか?

まず、どのような場合に使えないかを明確化します。

例えば、「前件に意志Vは×」「後件に将来のことは×」「後件に推測表現は×」などです。

基本的には上の前後件制限のところで説明したものから外れた場合が、「使えないとき」です。

これをしっかり把握して説明しておけば、学習者から誤った文が出たときも怖くありません。

以下の2つの文を見てください。学習者がこのような文を発表して、「どうしてダメですか」と聞いてきたら、どのように答えますか。考えてみましょう。

(1)*この交差点は事故が多いおかげで、信号機が設置された。
(2)*先生のおかげで、私は大学に入るつもりです。



答えです。

(1)*この交差点は事故が多いおかげで、信号機が設置された。

  • 「事故が多い」は「+」の内容ではない
  • 「ー」の内容なので、感謝の気持ちを伝える対象になってない

(2)*先生のおかげで、私は大学に入るつもりです。

  • 「大学に入るつもり」は自分の将来の意志で、すでに起きた事実ではない
  • 因果関係が曖昧

【いつ使えないかのまとめ】

  • 「いつ使えるか」より「いつ使えないか」を説明する
  • 前後件制限に当てはまらないのが「使えないとき」
  • 教える時は明確にルール化する

5. 類似表現との違い

最後に、類似表現との違いです。

初級でもそうですが、中級以上の文法を教える時は、必ずそれまでに勉強した文法表現をチェックして、似たような意味を持つものをチェックしておきましょう。

既習事項がしっかり整理できている学習者からは、必ずと言っていいほど「この文法は、(前に習った別の)あの文法と、何が違いますか?」という質問が出ます。

もちろんそういう学習者は、1つ目のセクションで説明した「意味・基本的な機能」が共通している文法との違いを聞いてくるため、前後件制限の違いで説明することが多くなります。

そのため、類似表現についても、前後件の制限と、「いつ使えないか」を調べておく必要があります。

説明する時は、それぞれ一方しか使えない場合の例文を出し、

この時はAは使えるけどBは使えない

と説明しましょう。

よくどちらの文法も使える文脈での違いを説明しようとする人がいますが、そういう文脈での類似表現の違いは、感情の強さや焦点の当たる部分など、かなり微妙な違いになることが多いので、このレベルでは説明しても理解できないし、学習者が求めている説明でもないので、よほど要求された場合を除いては、超級でもない限り、やる必要はないです。

【類似表現との違いのまとめ】

  • 既習の文法で質問が出そうな類似表現の接続・前後件制限を調べておく
  • 類似表現の違いを聞かれたら、片方が使えて、片方が使えない場合を説明する
  • 同じ文脈での違いは説明しない

いかがでしたか?

このような内容を、学習者に分かるレベルの表現に言い換えて簡潔に示すことで、中級以上でもスムーズな文法説明ができるようになると思います。

また、中級ぐらいからは、文法説明によく使う用語(意志・無意志・推測・事実・過去・変化…)は早めに導入しておいた方が、後々説明がしやすくなります。

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